ミライくん
佐藤先生、ちょっといいですか。この間、地理の授業の宿宿題で「日本の東西南北の端っこにある島」を調べたんです。それで、日本の一番南にあるのは「沖ノ鳥島」っていう島だと分かったんですけど、ネットで写真を見てみたら、なんか僕のイメージする島と全然違っていて。
佐藤先生
お、ミライくん、自分で調べて写真まで見たんだね。それは素晴らしいな。どんな風にイメージと違っていたのかな。
ミライくん
島っていうから、緑の木が生えていて、砂浜があって、人が何人か住んでいるような場所を想像していたんです。でも、写真に出てきたのは、広い海の中に丸いコンクリートの大きな壁があって、その中にチキンの上の部分みたいな、すごく小さな岩がちょこんと乗っているだけだったんです。これ、本当に島なんですか。ただのコンクリートの塊か、ただの岩に見えるんですけど。
佐藤先生
なるほどね。ミライくんがびっくりするのも無理はないよ。初めて沖ノ鳥島の写真を見た人は、みんな同じように「これが島なの」って驚くんだ。結論から言うと、あれはれっきとした、日本にとってものすごく大切な「島」んだよ。今日はその沖ノ鳥島がどんな形をしていて、なぜそんな不思議な見た目になっているのか、分かりやすく説明しよう。
ミライくん
おねがいします。あのコンクリートの丸い壁はなんなんですか。あれが島の一部なんですか。
佐藤先生
いや、あの丸いコンクリートは、人間が後から作った「壁」んだ。ミライくんが見た、真ん中にある小さな岩があるだろう。あれこそが、本物の「沖ノ鳥島」の陸地なんだよ。実は、あの岩は放っておくと、海の中に沈んで消えてしまう可能性があったんだ。だから日本は、何千億円ものお金をかけて、あの岩の周りをコンクリートの壁や消波ブロックという波を消すブロックでガッチリと囲んで守ることにしたんだよ。
ミライくん
えっ、あの小さな岩を守るためだけに、そんな大金を使って壁を作ったんですか。わざわざそこまでして守らなきゃいけない理由があるんですか。
佐藤先生
そこがこの沖ノ鳥島の最大のポイントなんだ。もし、あの岩が波に削られたり、海面が上がったりして完全に海の中に沈んでしまったら、何が起きると思う。
ミライくん
うーん、島がなくなっちゃう。でも、あんなに小さな岩だったら、なくなっても誰も困らないような気がしますけど。
佐藤先生
確かに、あの岩の上には人は住めないし、お店も建てられないから、一見すると困らないように思えるよね。でも、前回の授業で「排他的経済水域(EEZ)」の話をしたのを覚えているかな。陸地から200海里、約370キロメートルの範囲の海では、その国が自由に魚をとったり、海底の資源を探したりできるっていうルールだ。
ミライくん
あ、覚えています。日本は島国だから、排他的経済水域が世界で6番目に広いんですよね。
佐藤先生
そう。そして、その広さを支えているのが、日本中のたくさんの島々なんだ。もし沖ノ鳥島が海に沈んで「島」でなくなってしまったら、その周りにある巨大な排他的経済水域がすべて消えてしまうんだよ。
ミライくん
すべて消えちゃうんですか。あの小さな岩のせいで。
佐藤先生
そうなんだ。沖ノ鳥島の周りにある排他的経済水域の広さは、なんと約40万平方キロメートルもある。これは、日本の陸地の面積全部よりも広いんだよ。つまり、あの小さな岩があるおかげで、日本は日本全体の土地よりも広い海の資源を手に入れているんだ。もしあの岩が沈んでしまったら、その広大な海は「だれのものでもない海」になってしまって、他の国の船がやってきて自由に魚をとったり、資源をごっそり持っていったりしてしまうんだよ。
ミライくん
それは大変だ。日本の陸地よりも広い海が、あの岩一つにかかっているんですね。だから国はお金を使ってでも、絶対に沈まないように守っているんだ。
佐藤先生
その通り。だからあのコンクリートの壁は、日本にとっての宝物を守るための盾のようなものなんだよ。じゃあここで、沖ノ鳥島がもともとどんな形をしているのか、もっと詳しく見てみよう。ミライくんが見た写真は、海の上に出ている部分だけだったけれど、実は海の下にはものすごく大きな土台が隠されているんだ。
ミライくん
海の下ですか。どんな風になっているんですか。
佐藤先生
沖ノ鳥島はね、実は「サンゴ礁」でできた島なんだ。大昔に海底火山が噴火してできた山の上の部分に、たくさんのサンゴが集まって、長い年月をかけて大きなドーナツのような形のサンゴの土台を作ったんだよ。この海面の下にあるサンゴの広さは、東西に約4.5キロメートル、南北に約1.7キロメートルもあるんだ。だから、学校のグラウンドが何個も入るくらい、海の下の土台は実はものすごく広いんだよ。
ミライくん
へえ、海の下はそんなに広いんだ。じゃあ、その広い土台のほとんどは海の中に沈んでいて、一番高いところにある尖った岩だけが、たまたま海の上にピョコッと出ているってことですか。
佐藤先生
まさにその通り。完璧なイメージだよ。その海の上に出ている岩は、現在2つしかないんだ。「北小島」と「東小島」という名前がついている。ミライくんが写真で見たのは、そのうちのどちらか、あるいは両方だね。この2つの岩は、どれくらいの大きさだと思う。
ミライくん
写真だとチキンみたいに見えたから、人間と同じくらいですか。
佐藤先生
いい線いっているね。北小島は、高さが地球のウサギの耳くらいというか、だいたい1メートルちょっとくらい。東小島はさらに小さくて、高さは数十センチメートルしかないんだ。畳の部屋でいうと、数畳分くらいの面積しかない、本当に小さな小さな岩んだよ。
ミライくん
数十センチメートル。それじゃあ、ちょっと大きな波が来たら、簡単に飲み込まれて隠れちゃいますね。
佐藤先生
そうなんだよ。しかも、サンゴの岩だから、強い波が何度も当たると、少しずつ削られてボロボロになってしまうんだ。実際に、昔に比べて少しずつ削られて小さくなっていたんだよ。だから1980年代の終わりに、日本政府は「このままでは本当に島が消えてしまう」と危機感を持って、大がかりな工事を始めたんだ。
ミライくん
それが、あの丸い壁なんですね。
佐藤先生
そう。まず、岩の周りに直径50メートルくらいの大きな丸いスチールの壁を作って、その中にコンクリートを流し込んで固めた。さらにその周りに、波の勢いを弱めるための消波ブロックを山ほど敷き詰めたんだ。これによって、外からの激しい波が直接、中の岩に当たらないようにガードしたんだよ。
ミライくん
なるほど。でも先生、コンクリートで岩の周りを固めるだけじゃなくて、いっそのこと岩全体をコンクリートで完全に覆っちゃったり、もっと大きな人工の島を上に作っちゃったりすれば、もっと安全なんじゃないですか。
佐藤先生
ミライくん、それはすごく頭のいい発想だね。普通ならそうしたくなるよね。でも、それをしてしまうと、今度は世界から「それは島じゃない、人間が作った人工の建物だ」と言われてしまう恐れがあるんだ。国連が定めた海の法律(国連海洋法条約)には、「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう」というルールがあるんだよ。
ミライくん
自然にできた陸地、ですか。
佐藤先生
そう。つまり「神様が作った自然の岩や土地」じゃないと、島としては認められないんだ。もし人間がコンクリートで岩を全部塗りつぶしてしまったら、「それは人間が作ったただのコンクリートの塊(人工島)だから、周りの海を排他的経済水域にはできません」と、他の国から文句を言われてしまうかもしれない。だから、もともとあった自然の岩の形をそのまま残して、傷つけないように、周りだけを壁で囲んで守るという、すごく慎重な方法をとったんだよ。
ミライくん
あ、そうか。全部固めちゃうたら、自然の島じゃなくなっちゃうんだ。だから、あえてあのチキンみたいな岩の形をそのまま残して、周りだけを守っているんですね。すごくギリギリの工夫をしているんだなあ。
佐藤先生
その通りなんだ。法律のルールをしっかり守りながら、自国の海を守るための知恵なんだよね。ちなみに、あの岩のさらに上には、チタンで作られた特殊なネットの屋根もかけられているんだよ。
ミライくん
屋根まであるんですか。いたれりつくせりですね。それは何のためですか。
佐藤先生
あれはね、上から降る雨や、日光による温度の変化で、岩がひび割れて崩れてしまうのを防ぐためんだ。サンゴの岩はデリケートだから、雨水が当たると少しずつ溶けたり脆くなったりする性質がある。だから、空からの攻撃、つまり雨や直射日光からも守るために、頑丈なカバーをかけているんだよ。
ミライくん
雨からも守られているなんて、日本一過保護にされている岩かもしれないですね。
佐藤先生
ははは、確かに「日本一過保護な岩」と言ってもいいかもしれないね。でも、それだけの価値があるからね。さらに言うと、その2つの岩の近くには、これまた人間が作った大きなジャングルのような「観測基地」が建っているんだよ。
ミライくん
えっ、人が住めるような建物もあるんですか。あの壁の中にですか。
佐藤先生
いや、壁の中ではなくて、さっき言った海の下にある広いサンゴの土台の別の場所に、頑丈な柱を何本も立てて、海の上に浮かぶような形で大きな建物を建てたんだ。そこには、気象を観測する機械が置いてあったり、海上保安庁の職員や研究者が泊まり込みで調査をしたりできるようになっている。ヘリコプターが着陸できる場所もあるんだよ。
ミライくん
へえ。じゃあ、人がそこにいて、いつでも沖ノ鳥島や周りの海を見張っているんですね。
佐藤先生
そう。そこに人がいて活動しているということ自体が、「ここは日本の領土であり、日本がちゃんと管理している場所ですよ」と世界に示すための強いアピールになるんだ。だから、あの基地もものすごく重要な役割を持っているんだよ。
ミライくん
小さな岩を守るための壁があって、さらにその近くに大きな観測基地がある。沖ノ鳥島って、海の上に出ている部分だけ見ると頼りないけど、全体を見るとものすごい国家プロジェクトの塊なんですね。
佐藤先生
その通りだね。ミライくんは今日の話を聞いて、最初のイメージと比べてどう感じたかな。
ミライくん
ただの変な形の岩だと思っていたけど、海の下には広い土台があって、日本にとって宝物のような価値があるからこそ、あの形になっているんだってよく分かりました。ニュースで「沖ノ鳥島」って言葉を聞いたら、あの過保護に守られている岩と、その周りに広がる日本の広い海を思い出すようにします。
佐藤先生
それは素晴らしいね。地理の勉強は、こうやってニュースや写真の「なぜ」を解き明かしていくと、どんどん面白くなるんだ。じゃあ、今日の沖ノ鳥島の形状や、なぜその形をしているのかについての話を、最後にスッキリまとめておこう。
これまでの説明をすべて整理すると、沖ノ鳥島の形状と役割に関する結論は次のようになります。
まず、沖ノ鳥島の全体の形状は、海面の下に東西約4.5キロメートル、南北に約1.7キロメートルという非常に広大なサンゴ礁の土台を持っています。その広大な土台のほとんどは海の中に隠れていますが、一番高い部分にある2つの非常に小さな自然の岩(北小島と東小島)だけが、海の上にわずかに顔を出しています。この2つの岩の大きさは、高さが数十センチメートルから1メートルちょっとしかなく、人間の背丈や数畳分の面積ほどしかありません。
次に、この島が現在のような不思議な見た目になっている理由は、日本政府がこの2つの岩を海に沈ませないために、徹底的な保護工事を行ったからです。国際的な法律により、自然の陸地が少しでも海の上に残っていれば「島」として認められますが、完全に沈んでしまうと島ではなくなってしまいます。沖ノ鳥島が島でなくなると、日本はその周りにある、日本の陸地全体よりも広い約40万平方キロメートルもの広大な「排他的経済水域(EEZ)」をすべて失うことになります。
そのため日本は、自然の岩の形を一文字も変えずにそのまま残した上で、その周りを直径約50メートルの円形のコンクリート壁で囲み、さらに外側を無数の消波ブロックでガードしました。これにより、激しい波によって岩が削られるのを防いでいます。また、上空からの雨や直射日光で岩が風化しないよう、チタン製の頑丈なネットで屋根がかけられています。
さらに、このサンゴの土台の上には、高床式の頑丈な観測基地も建設されており、気象観測や実効支配のアピールを行っています。
結論として、沖ノ鳥島は「海の下には広大なサンゴの土台があり、海の上にはコンクリートの円形壁に守られた2つの小さな自然の岩がある」という形状をしています。この特殊な姿は、日本が自国の広大な海の資源(排他的経済水域)を絶対に守り抜くという、強い意志と知恵が形になったものなのです。