佐藤先生とミライくんの流水算マスター講義
ミライくん
ある日の放課後、ミライくんは数学のワークを前に頭を抱えていました。ノートには速さの公式が何度も書き殴られていますが、どうにも計算が合わないようです。そこへ、数学担当の佐藤先生が通りかかりました。
あ、佐藤先生。またややこしい問題にぶつかっちゃって。文章題の「流水算」っていうやつなんですけど、問題を読むだけで頭がパニックになるんです。普通の速さの計算だけでも苦手なのに、川の水が流れるとか、上りとか下りとか言われるともう、何がなんだかさっぱりわかりません。
佐藤先生
ミライくん、今度は数学のワークとにらめっこしているね。ペンが止まっているみたいだけど、どんな問題で悩んでいるんだい。
なるほど、流水算か。確かに、動いているのは船だけじゃなくて川の水も一緒に動いているから、普通の速さの問題よりも考えることが多くて難しく感じちゃうよね。でもね、流水算の正体は、ミライくんが普段よく乗っている「ある乗り物」と全く同じ仕組みなんだよ。
ミライくん
えっ、僕が普段乗っている乗り物ですか。川でボートなんて乗ったことないですよ。
佐藤先生
船じゃなくていいんだ。ミライくんは、駅やショッピングモールにある「エスカレーター」や「動く歩道」に乗ったことはあるかい。
ミライくん
佐藤先生
じゃあ想像してみてほしい。もしも、前へ進む「動く歩道」の上を、ミライくんがさらに前を向いてトコトコと歩いたら、歩道の下でじっと立って見ている人からは、ミライくんはどんな速さで進んでいるように見えるかな。
ミライくん
それは、めちゃくちゃ速く進んでいるように見えます。だって、動く歩道が僕を前に運んでくれている上に、自分でも歩いて前に進んでいるわけですから、両方の速さが合体して、ものすごいスピードになりますよね。
佐藤先生
大正解。まさにその「両方の速さが合体する」という感覚が、流水算の半分を占めるんだ。川の流れに乗って進む「下り」の速さは、この動く歩道を歩くミライくんと全く同じ状態なんだよ。船が自分で進む速さに、川が流れる速さがプラスされるんだ。
ミライくん
なるほど。船のパワーと川のパワーが足し算されるから、下るときはスピードがアップするんですね。それならイメージしやすいです。
佐藤先生
じゃあ、もう半分のパターンを考えてみよう。もしも、前へ進む「動く歩道」を、ミライくんが逆方向から乗って、後ろ向きに進む歩道に逆らって無理やり前に進もうとしたらどうなるかな。
ミライくん
うわ、それはすごく大変そうです。歩道は後ろに僕を押し戻しようとするから、僕が一生懸命前に歩いても、なかなか前に進まないですよね。もし歩道の動く速さと僕の歩く速さが同じだったら、その場で足踏みしているみたいに止まって見えちゃいそうです。
佐藤先生
素晴らしい。その通りだよ。もし歩道のほうが速かったら、前に歩いているはずなのに後ろに流されちゃうよね。この、流れに逆らって進む大変な状態が、流水算でいうところの川を「上る」ときの速さなんだ。自分が前に進む速さから、邪魔してくる川の速さを引き算しなければいけないんだよ。
ミライくん
引く。つまり、上りの速さは、船の速さから川の速さを引いたものになるんですね。
佐藤先生
その通り。流水算の基本は、たったこれだけなんだ。 下るときは、船の速さと川の速さを「足す」。 上るときは、船の速さから川の速さを「引く」。 この二つの仕組みさえ頭に入っていれば、流水算の文章題のほとんどは、パズルのように簡単に解くことができるんだよ。
ミライくん
足算と引算だけなら、僕でもできそうな気がしてきました。でも、実際のテストの問題を見ると、なんだか数字がややこしく並んでいて、どれを足してどれを引けばいいのか分からなくなっちゃうんです。
佐藤先生
じゃあ、実際に簡単な数字を使って、一緒にパズルを解いてみよう。 例えば、流れのないプールやお池で、時速十キロメートルで進むことができる船があるとしよう。この「流れのないところでの船の速さ」のことを、算数や数学では「静水時の速さ」って呼ぶんだ。文字通り、静かな水のときの速さだね。
ミライくん
静水時。静かな水のときの速さ、つまり船本来の本当のパワーのことですね。
佐藤先生
そう。じゃあ、この船を、時速二キロメートルで流れている川に浮かべたとしよう。 この船が川の流れに乗って「下る」とき、下りの時速は何キロメートルになるかな。
ミライくん
下りは動く歩道と同じで足算だから、船のパワーの十に、川の流れの二を足して、時速十二キロメートルですか。
佐藤先生
正解。じゃあ、逆にこの船が川の流れに逆らって「上る」とき、上りの時速は何キロメートルになるだろう。
ミライくん
上りは邪魔されるから引算ですよね。船のパワーの十から、川の流れの二を引いて、時速八キロメートルです。
佐藤先生
完璧だよ、ミライくん。これで下りの速さが時速十二キロメートル、上りの速さが時速八キロメートルだと分かったね。じゃあ、ここでちょっとした数字のマジックを見せてあげよう。 今、ミライくんが計算してくれた「下りの速さの十二」と「上りの速さの八」という二つの数字だけを、最初から問題文で渡されたと想像してほしい。川の速さや、船本来の速さは隠されている状態だ。この二つの数字から、船本来の速さや川の速さを逆に見つけ出すことができるかい。
ミライくん
ええっ。下りが十二で上りが八っていうことしか分からないのに、そこから船の速さと川の速さが分かるんですか。そんなの、どうやったらいいのか見当もつきません。
佐藤先生
これが流水算の面白いところでね。この二つの数字を「足して二で割る」か、「引いて二で割る」かをすると、一瞬で答えが出てくるんだ。 まず、下りの速さの十二と、上りの速さの八を足してみてごらん。
ミライくん
佐藤先生
ミライくん
二十割る二は、十です。あ。十って、さっきの船本来の速さじゃないですか。
佐藤先生
そうなんだよ。下りの速さと上りの速さを足して二で割ると、必ず「船本来の速さ(静水時の速さ)」が飛び出てくるんだよ。 じゃあ次は、下りの速さの十二から、上りの速さの八を引いてみてごらん。
ミライくん
佐藤先生
ミライくん
四割る二は、二です。ああっ。二って、さっきの川の速さだ。
佐藤先生
不思議だろう。引いて二で割ると、今度は必ず「川の流れの速さ」が出てくるんだ。これを知っているだけで、流水算の問題は一気に簡単になるんだよ。
ミライくん
すごい。でも、なんで足して二で割ると船の速さになって、引いて二で割ると川の速さになるんですか。ただの暗記だと、テストのときに「どっちがどっちだっけ」って迷いそうです。
佐藤先生
そうだね。丸暗記はすぐ忘れてしまうから、仕組みを線分図というグラフのような絵で考えてみよう。 ノートに横線を一本引いてみて。これを船本来の速さの「十」の長さだとしよう。 下りの速さは、この「十」の線に、川の速さである「二」の線を右に付け足したものだよね。だから全体の長さは十二になる。 上りの速さは、この「十」の線から、川の速さである「二」の分だけ左に削って短くしたものだよね。だから長さは八になる。
ミライくん
はい、頭の中で線がイメージできました。下りは長い線で、上りは短い線ですね。
佐藤先生
この二つの線を、縦に並べて比べてみよう。 上の線は「船たす川」、下の線は「船ひく川」だ。 この二つの線をガッチャンコと足して一本の長い線にすると、どうなると思う。 上の線にある「たす川」と、下の線にある「ひく川」が、ちょうど相殺されて消えてしまうんだ。残るのは、「船本来の速さ」二本分になるんだよ。
ミライくん
あ。足し算されたことで、川のプラスとマイナスがゼロになって、船二本分の長さになっちゃうんだ。だから、二で割れば船一本分の速さに戻るんですね。線分図で考えると、めちゃくちゃ納得がいきました。
佐藤先生
その通り。視覚的に理解するとスッキリするよね。 じゃあ、二つの線の「差」である、引き算をしたらどうなるだろう。 長い下りの線から、短い上りの線をパチンと切り取ると、残るのはどこの部分かな。 下りの線が上りの線より長いのは、右側に「川」がプラスされていて、さらに上りの線は「川」の分だけ短くなっているから、その差はちょうど「川の流れの速さ二本分」になるんだ。
ミライくん
そっか。船の部分は引き算で消えちゃって、川の二本分の違いだけが残るんだ。だから、引いて二で割ると、川一本分の速さが出るんですね。線で考えると、めちゃくちゃ納得がいきました。
佐藤先生
これで公式の理由もバッチリだね。 流水算で使う大切な道具は、今説明したエスカレーターのイメージと、この足して二で割る、引して二で割るというパズル。そしてもう一つ、ミライくんがよく知っている「み・じ・は」の公式、つまり「道のり・時間・速さ」の丸いテントウ虫みたいな図だ。
ミライくん
あ、キツツキのマークとか、き・じ・は、とも習いました。「速さかける時間=道のり」のやつですね。これ、流水算でも使うんですか。
佐藤先生
もちろん使うよ。流水算が難しく見えるのは、この「み・じ・は」の公式の中の「速さ」の部分に、ただの速さではなくて「下りの速さ」や「上りの速さ」を入れなきゃいけないからなんだ。 だから、問題文を読んだら、まずは落ち着いて「これは下りの話かな、上りの話かな」と見分けて、それぞれの速さをパズルで求めてから、いつもの「み・じ・は」に当てはめればいいんだよ。
ミライくん
なるほど。いきなり公式に数字を入れるんじゃなくて、まずは下りと上りの速さをハッキリさせてから、いつもの速さの問題として解けばいいんですね。なんだかできそうな気がしてきました。実際のテストに出てきそうな問題にチャレンジしてみたいです。
佐藤先生
素晴らしいやる気だね。じゃあ、ちょっとテスト風の文章題を出してみるよ。 「ある川の上流にあるA町と、下流にあるB町は、二十四キロメートル離れています。静水時の速さが時速十キロメートルである船が、この川をA町からB町まで下るのに二時間かかりました。このとき、川の流れの速さは時速何キロメートルですか。また、この船がB町からA町まで上るには何時間かかりますか」 という問題だ。
ミライくん
うわあ、急に文章が長くなって難しそうに見えます。でも、さっき先生が言っていた通り、まずは順番に整理していきます。 ええと、まずは下りの話からですね。A町が上流で、B町が下流だから、AからBに行くのは「下り」です。 道のりは二十四キロメートルで、かかった時間は二時間。 ということは、下りの速さが計算できます。二十四キロメートルを二時間で進んだんだから、二十四割る二で、下りの速さは時速十二キロメートルです。
佐藤先生
大正解。まずは下りの速さが「時速十二キロメートル」だと分かったね。じゃあ、問題の最初の質問である「川の流れの速さ」はどうやって求めればいいかな。問題文には「静水時の速さが時速十キロメートル」って書いてあるよ。
ミライくん
下りの速さは、船本来のパワーに川の速さを足したものですよね。 下りの速さが十二で、船本来のパワーが十なんだから、足された川の速さは、十二引く十で、時速二キロメートルです。
佐藤先生
素晴らしい。川の速さは時速二キロメートル、大正解だ。 じゃあ、次の質問にいってみよう。この船がB町からA町まで「上る」には何時間かかるか、だね。
ミライくん
次は上りの話ですね。上りの速さは、船本来のパワーから川の速さを引き算するから、船の十から、さっき求めた川の二を引いて、上りの速さは時速八キロメートルになります。
佐藤先生
その通り。上りの速さは時速八キロメートルだ。じゃあ、最後に時間を求めよう。
ミライくん
町と町の間の道のりは、上りも下りも変わらないから二十四キロメートルです。 時速八キロメートルで二十四キロメートルの道のりを進むんだから、「み・じ・は」の公式で、道のり割る速さをすれば時間が分かります。 二十四割る八で、三。答えは三時間です。
佐藤先生
お見事。完璧だよ、ミライくん。あんなに長い文章題だったのに、エスカレーターのイメージを使って順番に解きほぐしていったら、あっさりと正解までたどり着けたじゃないか。
ミライくん
本当だ。最初に問題を見たときは、どこから手をつけていいか分からなかったけど、下りと上りを別々に考えて、速さを出してしまえば、あとは普通の割り算と掛け算だけでした。流水算って、ちゃんと整理すれば怖くないんですね。
佐藤先生
そうなんだよ。数学の文章題は、一見すると複雑に見えるけれど、登場人物の動きや仕組みを一つずつ整理していけば、必ずシンプルな算数の計算に変わるんだ。 ミライくんはもう、流水算の基本と、それを解くためのステップを完璧に理解できているよ。この調子でワークの他の問題も解いてごらん。きっとスラスラ解けるはずだからね。
ミライくん
はい。先生のおかげで、エスカレーターのイメージがしっかり頭に残りました。忘れないうちに、ワークの問題を全部解いちゃいます。ありがとうございました。
進んで宿題に取り組むミライくんの姿を見送りながら、佐藤先生は笑顔で教室を後にしました。
流水算の本質を明確に理解するための要点は、以下の通りです。
流水算とは、流れる川の上を動く船のように、移動する物体そのものの速さに加えて、それを取り囲む環境(川の「流れ」やエスカレーターの「動き」など)の速さが影響を与える場合の速さを計算する文章題の分野です。
理解のための最も重要なポイントは、進行方向による速さの変化を「足し算」と「引き算」のイメージで捉えることです。
川の流れと同じ方向に進む「下り」では、船自身の速さ(静水時の速さ)に川の流れの速さが加わるため、足し算(下りの速さ = 静水時の速さ + 川の速さ)になります。これは、動く歩道の上を同じ向きに歩くと非常に速く進むイメージです。
逆に、川の流れに逆らって進む「上り」では、船自身の速さから川の流れの速さが引かれてしまうため、引き算(上りの速さ = 静水時の速さ - 川の速さ)になります。これは、逆方向に動くエスカレーターを無理やり駆け上がるような、進みにくい状態を表します。
さらに、流水算には知っておくと非常に便利な数字の性質(公式)があります。「下りの速さ」と「上りの速さ」の二つが分かっているとき、この二つの速さを足して二で割ると「船自身の速さ(静水時の速さ)」を求めることができ、二つの速さを引いて二で割ると「川の流れの速さ」を求めることができます。これは、線分図を描いて二つの速さを視覚的に比較したときに、川の速さのプラスとマイナスが相殺されたり、差として残ったりする仕組みに基づいています。
流水算の文章題を解く際は、いきなり全体の時間を計算しようとするのではなく、まずは問題文から「下りの速さ」や「上りの速さ」を個別に導き出し、その後で従来の「道のり・時間・速さ」の基本公式(み・じ・は の関係)に当てはめるという、段階的なステップを踏むことが確実な理解と正解への近道となります。
第1問: 静水時の速さが時速15kmの船が、時速3kmで流れる川を「下る」ときの速さは時速何km?
ワンポイント解説: 川を「下る」ときは動く歩道と同じ!船本来のパワーに川の流れの速さがプラスされるので、15 + 3 = 時速18km になります。
第2問: ある船が川を「下る速さ」が時速16km、「上る速さ」が時速10kmのとき、この川の流れの速さは時速何km?
ワンポイント解説: 「川の速さ」を求めるときは、下りと上りの速さを【引いて2で割る】パズルを使います! (16 - 10) ÷ 2 = 3 で、時速3kmになります。(足して2で割ると船の速さの13kmが出ます)
第3問: 静水時の速さが時速12kmの船が、時速2kmの川を50km「上る」のにかかる時間は何時間?
ワンポイント解説: まず「上る速さ」を出しましょう。流れに逆らうので 12 - 2 = 時速10km です。あとは「み・じ・は」に当てはめて、道のり ÷ 速さ = 時間 なので、50 ÷ 10 = 5時間 になります!
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