ミライくん
佐藤先生、ちょっといいですか。今日のニュースで「領海に外国の船が入ってきた」とか「領空侵犯の恐れがある」とか言っていたんですけど、正直何のことかさっぱり分からなくて。領土はなんとなく日本の土地ってイメージが湧くんですけど、海とか空まで日本のものなんですか。
佐藤先生
ミライくん、ニュースを見て疑問に思ったのは素晴らしいね。確かに、普段暮らしていると「海や空がだれの国のものであるか」なんて意識しないよね。結論から言うと、海も空も、日本のルールがしっかりと適用される範囲が決まっているんだ。今日はそれを、すっきり整理して分かるように説明しよう。まず、ミライくんは「領土」ってどこからどこまでだと思う。
ミライくん
それは分かりますよ。僕たちが今立っているこの日本の陸地ですよね。本州とか、北海道とか、九州、四国、それから沖縄とかの島も全部。
佐藤先生
大正解。その陸地の部分をまとめて「領土」と呼ぶんだ。じゃあ、その領土の周りにある「海」はどうなっていると思う。海はどこまでも続いているけれど、日本に近い海は日本のものなのかな。
ミライくん
うーん、なんとなく日本の近くの海は日本のものっぽい気がします。でも、どこまでが日本の海なんですか。境界線なんて海には引かれていないですし、見えないですよね。
佐藤先生
そうだね、海に線は引けないから、世界共通のルールで「陸地からこれくらいの距離まではその国の海にしよう」と決めているんだ。その海の範囲のことを「領海」と言うよ。具体的には、海岸線から「12海里」までと決まっているんだ。
ミライくん
かいり。海の里ですか。初めて聞きました。普通のキロメートルとは違うんですか。
佐藤先生
いいところに気づいたね。海里というのは、海や空の距離を測るときに使う特別な単位んだ。1海里は約1.85キロメートル。だから、12海里を計算すると、だいたい22キロメートルくらいになるよ。
ミライくん
22キロメートルか。思ったより近い気もしますけど、車で走ったら30分くらいかかる距離ですね。じゃあ、その22キロメートルの中だったら、日本は自由に何でもしていいんですか。
佐藤先生
基本的にはその通り。領海の中は、日本の陸地と同じように日本の法律が適用されるんだ。だから、外国の船が勝手にやってきて魚を釣ったり、怪しい動きをしたりすることは禁止されている。もしそんなことをしたら、日本の海上保安庁が「出ていきなさい」と取り締まることができるんだよ。
ミライくん
なるほど。じゃあ、外国の船は絶対に日本の領海に入っちゃいけないんですか。
佐藤先生
実は、そこには面白い例外があるんだ。「無害通航権」というルールがあってね。他国の船であっても、日本に害を与えないで、ただ通り過ぎるだけなら、領海を通ってもいいことになっているんだよ。例えば、大回りすると燃料がたくさんかかっちゃうから、安全に静かに通り抜けます、という場合はオッケーんだ。もちろん、途中で止まって怪しい調査をしたり、大砲を向けたりしたらアウトだけどね。
ミライくん
へえ、ただ通り過ぎるだけなら許されるんだ。海はみんなのものっていう優しさもあるんですね。
佐藤先生
そういうことだね。世界中の国が貿易で海を使っているから、お互いに困らないようなルールになっているんだ。じゃあ次は、一番イメージが湧きにくい「領空」について考えてみよう。領空っていうのは、どこの空のことだと思う。
ミライくん
空ですよね。やっぱり、日本の真上の空ですか。
佐藤先生
その通り。日本の「領土」と、さっき話した「領海」の真上にある空のことを「領空」と言うんだ。だから、陸地の上だけじゃなくて、あの22キロメートルの海の上の空も日本の領空になるんだよ。
ミライくん
陸と海の上をそのまままっすぐ上に伸ばした空間ってことですね。じゃあ、その空も日本のルールが通じるんですか。
佐藤先生
そうだよ。でもね、領海と領空には決定的な違いがあるんだ。さっき、領海は「無害なら通り過ぎてもいい」というルールがあるって言ったよね。
ミライくん
はい、無害通航権でしたっけ。
佐藤先生
よく覚えているね。だけど、領空にはそのルールがないんだ。つまり、外国の飛行機は、たとえ無害であっても、日本の許可なく勝手に領空に入ってきてはいけないんだよ。
ミライくん
えっ。通り過ぎるだけでもダメなんですか。
佐藤先生
ダメなんだ。飛行機は船よりもスピードがものすごく速いよね。もし勝手に入ってくるのを許してしまうと、あっという間に首都の上空まで来られてしまうかもしれない。それは国を守る上でとても危険だから、空のルールは海よりもずっと厳しいんだ。だから、もし許可のない外国の飛行機が近づいてきたら、日本の航空自衛隊の戦闘機がすぐに飛び立って、「それ以上近づくな、進路を変えなさい」って警告するんだよ。これをニュースでは「スクランブル(緊急発進)」って呼んでいるんだ。
ミライくん
テレビで見たことあります。自衛隊の飛行機が急いで飛び立つやつですね。あれは領空に入られないように守っていたんだ。じゃあ先生、空ってどこまでも高くまで続いているじゃないですか。宇宙まで日本の領空なんですか。
佐藤先生
それも誰もが一度は考える疑問だね。結論を言うと、宇宙は領空には含まれないんだ。飛行機が飛べる高さ、だいたい空気があるところまでが領空とされているよ。はっきりした数字は決まっていないけれど、一般的には地上から100キロメートルくらいまでが領空で、それより高い宇宙空間は「みんなのもの」として、どの国の人工衛星でも自由に飛んでいいことになっているんだ。
ミライくん
宇宙はフリーなんですね。もし宇宙まで日本のものだったら、他の国の人工衛星が通るたびに怒らなきゃいけなくなりますもんね。
佐藤先生
その通り。だから、空と宇宙の間には見えない境界線があるんだ。ここまでを一度整理すると、国が自由に法律を適用できる範囲として「領土」「領海」「領空」の3つがあることが分かったよね。この3つをまとめて、専門用語で「領有空間」とか、国の主権が及ぶ範囲という意味で「領域」と呼ぶんだ。
ミライくん
りょういき、ですか。テレビのアニメとかでもよく聞く言葉ですけど、ちゃんとした法律の言葉だったんですね。
佐藤先生
そうだね。国というものが成り立つためには、この「領域」が絶対に欠かせないんだ。領域がないと、どこに自分の国のルールを当てはめていいか分からなくなっちゃうからね。
ミライくん
よく分かりました。でも先生、もう一つニュースでよく聞く言葉があるんですけど。「排他的経済水域」って言葉、聞いたことありませんか。テストに出るから覚えろって言われた気がするんですけど、領海とは違うんですか。
佐藤先生
よくその言葉を思い出したね。排他的経済水域、英語の頭文字をとって「EEZ」とも呼ばれるんだけど、これは中学生の社会で一番混乱しやすいポイントなんだ。ここもすっきり解決しておこう。領海は陸地から12海里(約22キロメートル)だったよね。排他的経済水域は、もっともっと広くて、陸地から「200海里」までと決まっているんだ。
ミライくん
200海里。ええと、1海里が約1.85キロメートルだから、200倍すると、だいたい370キロメートルくらいですか。
佐藤先生
計算が速いね。その通り、約370キロメートルだ。領海の22キロメートルに比べたら、ものすごく広い範囲だよね。
ミライくん
370キロメートルって、東京から名古屋を通り越すくらいの距離ですよね。そんなに広い海が日本のものなんですか。
佐藤先生
ここが誤解しやすいところなんだけど、排他的経済水域は「日本の海」ではないんだ。
ミライくん
えっ。日本の海じゃないんですか。じゃあ何のために決めているんですか。
佐藤先生
名前をよく見てごらん。「排他的」「経済」「水域」って書いてあるよね。この「経済」という言葉がヒントなんだ。この広い海の中にある魚をとったり、海の底にある海底資源、例えば石油とか天然ガスとかを探して掘り出したりする権利は、日本が一人占めしていいですよ、という意味の海なんだ。
ミライくん
あ、なるほど。法律を全部適用できるわけじゃないけど、お金儲けに関する権利は日本が独占できるってことですか。
佐藤先生
まさにその通り。完璧な理解だよ。例えば、アメリカの船や中国の船が、日本の排他的経済水域をただ通り過ぎるだけなら、それは完全に自由なんだ。領海ではないから、警察が捕まえるようなことはできない。でも、その船が勝手に網を下ろして魚を大量に捕まえたり、海底をドリルで掘って資源を調査したりしたら、それは日本だけの権利を横取りしたことになるから、「泥棒だ」ということで取り締まることができるんだよ。
ミライくん
なるほど。通り過ぎるのは自由だけど、資源を勝手にとっちゃダメ。だから経済の水域なんですね。そう考えると、日本って島国だから、周りの海がめちゃくちゃ広いんじゃないですか。
佐藤先生
その視点は素晴らしい。日本は陸地の面積だけで言うと、世界で60番目くらいで、そんなに大きな国ではないんだ。でも、周りにたくさん島があって、そこから200海里ずつ排他的経済水域を広げていくと、その面積は世界で6番目くらいに広くなるんだよ。
ミライくん
世界6位。日本って実は海の巨大国家だったんですね。
佐藤先生
そうなんだ。だから日本にとって、周りの海やそこにある小さな島々は、この広い排他的経済水域をキープするために、ものすごく重要な存在なんだよ。もし島が一つなくなってしまったら、その周りの広大な海の資源を失うことになってしまうからね。
ミライくん
島を守ることが、海を守ることにつながっているんですね。ニュースで島を巡って他の国ともめているのを見るのも、そのせいですか。
佐藤先生
まさにそれなんだ。単に「小さな岩や島が欲しい」というだけではなくて、その島を自分の国のもの(領土)にできれば、その周りに自動的に「領海」と「排他的経済水域」がついてくるからなんだ。それによって、とれる魚の量や、将来使えるかもしれない海底資源の量がガラリと変わってしまう。だから、どの国も真剣に話し合ったり、主張し合ったりしているんだよ。
ミライくん
やっとニュースの意味が繋がりました。領土、領海、領空、そして排他的経済水域。それぞれにちゃんと意味があって、国にとってはどれも命の次に大事なものなんですね。
佐藤先生
その通り。ミライくんがしっかり理解してくれて先生も嬉しいよ。じゃあ、今日の話を一度きれいにまとめて、いつでも思い出せるようにしよう。
これまでの説明をすべて整理すると、国の範囲に関する結論は次のようになります。
まず、国が持っている「3つの絶対的な聖域」を領域と呼びます。
1つ目は領土です。これは、私たちが暮らしている陸地そのもののことです。本州や北海道といった大きな島から、周りにある小さな島まですべてが含まれます。
2つ目は領海です。これは、領土の岸から12海里、約22キロメートルまでの海のことです。ここには日本の法律がしっかりと届くため、外国の船が勝手に資源をとることはできません。ただし、他国に害を与えない形でただ通り過ぎるだけなら通行が認められるという、海ならではの優しいルールがあります。
3つ目は領空です。これは、領土と領海の真上にある空のことです。高さとしては飛行機が飛べる宇宙の手前までとなります。空は船よりも移動スピードが速く危険が大きいため、海よりもルールが厳しくなっています。たとえ無害であっても、外国の飛行機が事前の許可なく勝手に入ることは絶対に許されません。
これら3つの「領域」とは別に、海の資源を守るために作られた特別なエリアが排他的経済水域(EEZ)です。
これは、陸地から200海里、約370キロメートルという非常に広い海に設定されています。このエリアは「日本の海」そのものではないため、外国の船や飛行機が自由に通り過ぎることは禁止できません。しかし、その海にいる魚をとったり、海底にある石油やガスなどの資源を調査・開発したりする権利だけは、その国が独占していいというルールになっています。
日本は陸地こそ小さいですが、四方を海に囲まれた島国であるため、この排他的経済水域を合わせると世界有数の広い海を持つ資源豊かな国になります。だからこそ、国境近くの島や海を守ることが、国全体を守るためにとても大切なことになっているのです。